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【建築家インタビュー】「太陽にありがとうと言える暮らし」建築家・堀部安嗣の葉山の自邸

2025.12.30
建築家紹介
【建築家インタビュー】「太陽にありがとうと言える暮らし」建築家・堀部安嗣の葉山の自邸

玄関をくぐった瞬間、時が止まったかのような感覚を覚える。全身で、何かが違うとすぐにわかった。まるで、寺のような静寂な空間。玄関からは、大きなガラス窓が中庭と離れの瓦屋根の景色を切り取る。窓越しの中庭では、立ち上りゆらめく蚊取り線香の煙が、私を現時空に戻してくれた。

ここは建築家・堀部安嗣さんの自邸。 モノクロームが以前の動画撮影でお邪魔した際に聞いた『冬こそ太陽光を入れるべきだ』という一言を、今日は改めて、じっくり聞きに来た。

けれど話は、いきなり太陽光では始まらなかった。 この家自体がまとっている「気持ちよさ」の理由から、静かにほどけていった。視覚だけでは説明できない「気持ちよさ」

ダイニングテーブルを挟んで腰を下ろすと、堀部さんはゆっくりと言葉を選びながらこう切り出す。

『住宅って、五感を総動員した結果として『気持ちがいい』『快適だ』っていう判断が生まれるものだと思うんです』

家づくりの現場では、どうしても視覚情報に偏りがちだ。 間取り図、完成予想図、CGSNSにあふれる写真……。私たちも日々、その「見た目」のレイヤーで家を語っている。

けれど実際に暮らし始めると、日々の満足度を左右しているのは、むしろ視覚以外の感覚だ。

『設計して、暮らし始めたお宅を訪ねると、『あ、これは図面の段階では気づかなかったな』ってことがたくさんあるんです。それをもっと精度よくコントロールしたいと思ったら、もう自分で住んでみるしかないな、と』

この自邸は、そんな「五感のデザイン」を、自分自身の暮らしで検証するための、静かな実験場でもある。

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森の木陰のような家

一通り家の中を案内してもらい、改めて腰を落ち着ける。 ふと気づくと、『暑い』『寒い』という言葉が、頭の中から抜け落ちている。

『冬場の暖房も、暖房しているって感じが全くないんです。 夏も冷房しているって感覚じゃなくて、ただただ、普通に心地いい温度になっている』

高い断熱・気密性能と、常時新鮮な空気を取り込む換気システム。そこに、ふんだんに使われた木材が、さらに効果を重ねていく。

夜、ちょっと匂いの強い料理をしても、翌朝には匂いがすっと消えている。かわりに、日々の背景として立ち上がってくるのは、ほのかな木の香り。

『木の香りって、やっぱりリラックスを促してくれるんですよね。 昔は『本当かな』と思ってたんですけど、住んでみると本当だってよく分かります』

足元には、柔らかな杉板の床。 冬は足の裏から、ぽっと灯りがともるような丸い温かさが立ち上がる。 夏は余分な水蒸気を吸ってくれて、いつもさらりとしている。

『この杉板が、自分の人生を足の裏から支えてくれているような感覚があるんです。決して大げさじゃなくて、本当にそう思う』

そして、この家で強く印象に残るのが静けさだ。 窓を閉めると、外の音はすっと遠のき、家の中に柔らかな無音の層が生まれる。

『断熱・気密性能を上げると、イコール静寂性にもつながるんですよね。 それが深い眠りを支えてくれているのも、住んでみてよく分かりました』

一方で、完全な無音の世界だけを良しとしているわけでもない。 リビングから一歩進むと、サンルームに出ることができる。

『ここに出ると、鳥の声や風の音、犬の鳴き声が入ってくる。 気分や状況に合わせて、静寂の世界と外の音の世界、質の違う二つの世界を行き来できるのが楽しいですね』

この家の心地よさをひと言で表すなら、「森の木陰のような家」という言葉がしっくりくる。

「本物」を無駄にしないという選択

視線を天井に向けると、目を引く素材がいくつも目に入ってくる。檜の丸太の周辺部、いわゆる天端材。規格外のため廃棄された古煉瓦。

一般的には「捨てられる側」に回されがちな素材たちが、この家では静かに居場所を与えられている。

『まずは本物を使いたい、というのがあったんです』

堀部さんの言う「本物」は、高価な銘木だけを指しているわけではない。

『今の社会では、本物って『高価で手が届かないもの』みたいに思われがちですけど、本来は誰もが平等に享受できる当たり前の価値だったはずなんですよね』

だからこそ、立派な銘木だけに頼らない。大根の葉っぱまでおいしく料理するように、普通なら見過ごされる部位も含めて、できるだけ無駄にしない。

もうひとつの「本物」が、屋根に使われている淡路の瓦だ。 阪神淡路大震災をきっかけに生産量は9割減。物価高や地震報道による風評被害も重なり、いまや瓦文化は静かに追い込まれている。

『このままだと、消えてしまう本物なんですよね。だからどうにか継承したい。もったいなさすぎるんです』

瓦を見上げるその視線には、ひとりの建築家としての危機感と、長年付き合ってきた素材への敬意がにじんでいた。

瓦が主役、太陽光発電は「縁の下の力持ち」

そんな「本物へのまなざし」と太陽光発電は、どう折り合いをつけているのか。

外からこの家を眺めるかぎり、太陽光パネルの気配はどこにもない。 きれいに葺かれた瓦屋根が、どの角度から見ても視界を占める。

種明かしは、母屋とは別に建てられた離れにある。 その南面の屋根、しかもどこからも見えない面に、パネルがそっと載っているのだ。

『基本的に、どこからも見えない屋根面に太陽光パネルを載せたいと思いました。 けらば(屋根の端)にはちゃんと瓦を葺いているので、横から見ても分からない。 太陽光発電は、縁の下の力持ちみたいな存在ですね』

多くの人が抱く「太陽光発電への違和感」は、『無粋』『景観を壊す』『廃棄物処理に問題がある』といった減点法の視点から来ているのではないかと堀部さんは言う。

『でも、太陽光発電自体は使い方によっては素晴らしいものだと思うんです。 問題なのは、どう組み合わせるか、なんじゃないかと』

瓦が主役であり続けること。 その裏側で、そっと発電を続ける太陽光パネル。

この自邸の屋根には、「本物の継承」と「エネルギーの自立」が、静かに握手を交わしているような印象があった。

太陽光発電は「ペイするかどうか」だけの話ではない

堀部さんは、自邸に限らず、自身が設計する住宅やその他の建物でも、無理なく導入できるなら太陽光発電を取り入れるようにしているという。

『この敷地、このケースにおいて太陽光発電が合理的じゃなければ、無理にやる必要はないと思います。でも基本的には、入れたい、という考えです。自分の家も、入れることを前提にプランを考えました』

そこで語られた理由は、いわゆる「何年でペイするか」という計算とは、少し違うところにあった。

『太陽光発電の良し悪し以外の話、住み心地とかを住まい手の方から聞いていくと、『自分の家でできることを自分がやっている』っていう感覚に、かなり寄与しているんですよね』

夏、外出中もエアコンをつけっぱなしにしておける安心感。 蓄電池があれば、停電時にも家族を守れるという心の支え。

『それって、精神衛生上も身体面でも、すごく大きいと思うんです。 家への信頼感とか安心感にもつながる』

だからこそ、太陽光発電を『何年でペイするか』だけで評価してしまうのは、あまりにももったいないと堀部さんは言う。

家庭菜園のように「いただきます」と言えるエネルギー

太陽光発電の豊かさを語るとき、堀部さんは家庭菜園の話を持ち出した。

『ものすごく高価な食材を、船便で輸送費をかけて運んできて食べる。 それはそれで美味しいかもしれないけど、僕はあまり豊かさにつながらないなと思っていて』

それよりも、自宅の庭で育てたトマトを食べる方が、ずっと豊かだと感じる。 それは、エネルギーにもそのまま当てはまるのではないか、と。

『電気って、輸送にもすごくお金がかかるんですよね。あれがすごく理不尽だなと。 だったら、自分の敷地に燦々と価値ある太陽が降り注いでいるわけですから、その恵みをそこで最大限享受するほうが自然なんじゃないかと』

太陽に向かって心の中で『いただきます』と言うような感覚。 それが堀部さんの言う「太陽光発電の豊かさ」だ。

『家庭菜園って、ものすごくコンパクトに成り立っている豊かさのモデルですよね。 これからはエネルギーも、遠くから買うんじゃなくて、そういう方向に向かうべきじゃないかなと思います』

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『冬こそ太陽の恵みを享受すべき』

その背景には、日本の風土に対する堀部さんの視点がある。

『こんなに冬寒い時期に晴れる風土って、特に太平洋側ではすごく珍しいんですよ。 ヨーロッパの方が日本の太平洋側の冬を経験したら、『なんて恵まれているんだ』と思うはずです』

寒いのに、よく晴れる。それは、太陽光発電にとって、世界的に見ても稀有な「追い風の気候」だ。一方で、冬に晴れの少ない日本海側にも、別の財産がある。

『冬に湿度が高いって、実はすごく財産なんですよ。風邪をひきにくいとか、お肌がきれいだとか、独特の料理の美味しさとか』

人はすぐに『湿気ている=ネガティブ』と捉えてしまう。 けれど視点を変えれば、どの地域にもその土地ならではの恵が必ずある。

『北欧のインテリアがあれだけ上質に発達したのも、冬が暗くて寒いからなんですよね。 ネガティブに捉えたらそこで終わりだけど、『じゃあ家の中を暖かく楽しくしよう』って前向きに考えた結果なんです』

太陽光発電も同じだ。 山を切り崩してメガソーラーをつくるようなやり方だけを見て『太陽光=悪』と結びつけてしまうのではなく、 戸建て住宅の屋根という身近な資源に、目を向ける必要がある。

『日本って、世界の先進国の中でも本当に戸建て住宅が多いんです。 その屋根は空いているし、冬も晴れる。そこで自分の家でちゃんと発電するって、とても合理的なことだと思いますね』

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Roof–1という「選択肢」を増やす技術

 Roof–1は、一見するとただの板金屋根にしか見えない。 それでも、屋根全体がしっかりと発電し、景観を損なわないことを大切にしている。

『住宅地や、この景観において、『ここで太陽光パネルをギラギラさせたくない』っていう住まい手の良心みたいなものがあれば、それはRoof–1を選ぶ理由になると思います』もちろん、架台式の後乗せパネルにも良さはある。

『例えば30年後、能力が落ちたら簡単に取り替えられるとか。それはすごく大事な価値ですよね』

だからこそ、大切なのは「どちらかが正解」ではなく、選択肢を増やすことだ。

『瓦と組み合わせるケースもあれば、Roof–1で全て板金の屋根にしてしまうケースもある。 その土地、その家、その暮らしにとっての適材適所を考えるのが、設計の仕事なんじゃないかなと思います』

モノクロームが準備を進めている、より手の届きやすい価格帯のRoof–1モデルについても、堀部さんはこんな話をしてくれた。

『本田宗一郎がF1に参戦したのも、F1で築いた技術を大衆車に広げるためだったそうです。 太陽光発電も、まずはお金に余裕のある方が高度な技術を支えて、それによって合理的で効率的な技術が生まれて、無理なく庶民の方に恩恵が広がっていく──そんな構図ができるといいですよね』

ハイエンドなRoof–1で培われた技術が、普通の暮らしにも届いていく。 そんな未来図が、静かに描かれている。

太陽光の前にやるべきこと──「器の性能」を忘れない

最後に「これから太陽光発電をとり入れたい人へのアドバイス」を聞くと、堀部さんは少し申し訳なさそうに、しかしはっきりと言った。

『太陽光の会社さんには言いにくいですが、まずは器の性能を上げるほうにお金を使ったほうがいいと思います』

断熱性能、気密性能、日射取得・日射遮蔽の計画…… 器の性能が乏しいまま、屋根に太陽光発電だけをしても、効率は上がらない。

『順番を間違えないほうがいいですね。器でできることをちゃんとやって、その上で太陽光発電を取り入れるほうが、省エネにも、豊かな生活にもつながると思います』

リフォームでも同じだ。 内窓をつけるだけでも断熱性は大きく変わり、器の性能は確実に上がる。

そのうえで、景観的に差し支えのない場所なら架台式でもいい。 住宅地や街並みに配慮したいなら、屋根にしか見えないRoof–1という選択肢がある。

『瓦とうまく組み合わせて、新旧が握手するようなやり方もできますからね』

『太陽、ありがとう』と言える家へ

取材の終わりに、私たちはサンルームに立ち、冬の光をしばらく眺めていた。 真冬の透き通った陽射しがガラス越しに差し込み、ストーブの熱と混ざり合って、家の奥へと流れ込んでいく。

『ここは太陽の恵みを享受する部屋にしたかったんです。真冬でも晴れてストーブをつけていると、一番暖かい。 もう、本当に『太陽さん、ありがとう』ですね』

冬によく晴れる太平洋側という、私たちがあまり意識してこなかった「風土の財産」。 すでに建っている住宅の屋根という、見過ごされがちな「日常の資源」。

『こんなに晴れているんだったら、最大限の太陽の恵みを享受しないとバチが当たると思いますよ』

『買う喜び』から、『作る喜び』へ。 遠くの発電所から電気を「買う」だけではなく、自分の屋根で太陽をいただく暮らしへ。

モノクロームのRoof–1が、 そんな暮らしを一軒でも多くの家に届けていけるように。

経済性の議論を超えた暮らしの哲学を、堀部さんから教えていただいた。

ありがとうございました。

「太陽にありがとうと言える暮らし」建築家・堀部安嗣の葉山の自邸|屋根一体型太陽光パネル「Roof–1」建築家インタビュー

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