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コーヒーと仏教。住職が店主の喫茶店に行ってきた。

2025.5.21
施主インタビュー
コーヒーと仏教。住職が店主の喫茶店に行ってきた。

山口県・岩国錦帯橋空港から海沿いの道を車で走ること約1時間。瀬戸内のハワイとも呼ばれる周防大島の玄関口・大島大橋を渡ると、時間がゆっくりと流れはじめる。しばらく進むと、山あいの住宅街のなかに、ひっそりと佇む観海山 妙善寺が姿を見せた。

寺のすぐ隣にある庫裡から現れたのは、妙善寺の15代目住職・大海裕孝さん。彼は、到着したばかりの私たちを、今年完成した大師堂へと案内してくれた。2024年に本堂で発見された親鸞聖人の木像を安置するために建てられたのが、この大師堂だ。喫茶室も併設され、ゴールデンウィーク明けから一般の人に向けてオープンされた。

中に入ると、すぐ右手に背の高いガラスケース入りのコーヒー焙煎機が目に入る。左手にはカウンタースペースが設けられており、大型の水出しコーヒーマシンが存在感を放つ。その背後の棚には、コーヒーミルやサイフォン、洒落たカップがずらりと並んでいた。部屋の奥には、5,6人が座れるテーブル、そして壁側に親鸞聖人の木像がガラスケースに入った資料と共に飾られている。

どうして大海さんは、この大師堂に喫茶室をつくったのだろう。案内してもらいながら、その思いを尋ねていった。

島に根付いたコーヒー文化

カウンターに腰を下ろすと、「どれにしますか?」といくつかの豆が差し出された。気になったものをひとつ選ぶ。 「自分でミルを挽くのが楽しいから、来た人には豆を選んでもらって、自分で挽いてもらうんです。」

そう言って、彼は私たちが選んだ豆をザッセンハウスのミルに入れて渡してくれた。ハンドルを回すと、ザクザクとした感触が心地いい。引っ掛かりがなくなるまで挽き終わったところで、それを返すと、目の前で熱したサイホンに流し込んだ。少しすると、コポコポと音を立てながら水が移動し、コーヒーが抽出されていく。サイホンで丁寧に淹れられたコロンビア豆のコーヒーは、ほのかな苦味が感じられ、コクが深く、まろやかな味わいが口の中に広がる。

大海さんにとって、コーヒーは生まれたときから身近な存在だった。その背景には、周防大島の歴史が関係している。明治時代の「官約移民」時(1885年〜1894年)には、周防大島全体で3913人をハワイへ送り出した。その数は、日本全国からの送出総数29000人の約13.5%にも上る。島の出稼ぎ文化や自然災害、そして当時の社会情勢が重なり、たくさんの人が周防大島からハワイへ渡ったのだ。その後、帰国した島の人々がコーヒーやチョコレートを持ち帰り、この地には古くからコーヒー文化が根付いていた。

彼のコーヒーへの愛は、大学時代を過ごした京都でさらに深まる。京都には多くの老舗喫茶店があり、大海さんは日々、さまざまな喫茶店に足を運んでいたという。友人たちの間では、「大学よりも喫茶店にいることの方が多い」と言われていたそうだ。

コーヒーというきっかけをつくる

大師堂の建設にあたって喫茶室を併設することは、そんな大海さんにとって自然なことだった。 「お腹が減ったらスマホで調べてお店を選びますけど、知らない店って入りにくいじゃないですか。お寺も同じで、全く知らないと入りづらいと思うんです。だからまずはコーヒーをきっかけに来てもらって、『住職はこんな人ですよ』と知ってもらうことが大切だと考えたんです。」 この喫茶室をふらりと訪れた人は、美味しいコーヒーを味わいながら、まるで喫茶店の店主と語らうように、大海さんとの会話を楽しむことができる。話題になった坊主バーならぬ、坊主喫茶である。 取材チームも、滅多にないこのような貴重な機会に、仏教への素朴な疑問や個人的な悩みをついつい口にしてしまったが、大海さんは一つひとつに丁寧に耳を傾け、穏やかに答えてくれた。それぞれの心に抱える引っかかりに、新たな視点が加わり、気持ちが少し軽くなるような時間だった。

何かあったときに島の人が集まれる場所

大師堂の建築にも、大海さんの強い思いが込められている。彼は、大学時代に阪神大震災を体験した。さらに、周防大島は過去に1ヶ月以上にわたる長期断水に直面したことがある。このような経験から、災害への備えは不可欠なテーマとなった。

柱のない広い空間を木造で実現するというデザインのビジョンを実現しながら、震災に考慮した強度を確保するために辿り着いたのがトラス構造だ。通常、鉄骨が使用されることが多いトラス構造を、木造で実現できる建築会社を自ら見つけ出した。

また、屋根一体型太陽光パネルはモノクロームのRoof–1を採用することで、景観に馴染むデザイン性を保ちつつ、発電量の確保に配慮。さらに、寺の本堂にはガソリンとプロパンガスの発電機も備えられ、非常時にも対応できる体制が整っている。 「断水が起きたとき、井戸はあったのに検査をしていなかったため、飲水として使えなかったんです。それからは毎年検査を行い、何かあったときには水を提供できるようにしています。いろいろな発電方法も確保し、電気もこの寺で賄えるように準備しています。」

Roof-1が施工された、お大師堂

仏教を通して育む、物事を多面的に見る力

大師堂でコーヒーをもてなしてくれた後、大海さんは私たちを本堂へと案内した。建て替えられてから150年ほど経つ木造の寺の中には、浄土真宗本願寺派で極楽を象徴するという金色の美しい装飾が施されている。内陣の中央には、木造阿弥陀如来立像が厳かに坐し、堂内を見守っていた。

如来立像の前に置かれた机には、美しい6羽の鳥が彫られている。そのなかに一羽だけ、極楽の世界にしか存在しない鳥がいる。「共命鳥(グミョウチョウ)」という、一つの体に二つの頭を持つ鳥だ。物語では、二つの頭の仲が悪く、ある日片方がもう片方に毒を飲ませてしまう。しかし、体は一つなので、結局二羽とも死んでしまう。 「これは因果応報の話です。悪いことをすれば、いずれ自分に返ってくる。人間も同じだと思うんです。私たちは一つの地球という体で生きていて、その上に無数のが生えているようなもの。だから、他者を害してしまうと、いずれはその害が自分にも返ってくる。そういうことを、この物語は教えてくれています。」

一羽の架空の鳥が語る教訓。それは単なる寓話ではなく、現代を生きる私たちに深く関わっているように感じられた。大海さんは、机に物語が彫られているように、寺の中にはお経の内容がさまざまな形で表現されていると説明する。寺は、仏教を教えるだけでなく、あくまでも触れるきっかけを与える場所だそうだ。それでは、この寺を訪れた人にどんなことを感じ取ってほしいかと尋ねると、彼はこう語った。

「仏教って、お釈迦様がそうなんですけど――答えをくれるわけじゃないんです。ただ、多様な見方を提供してくれる。どうしても私たちは一方的な視点しか持てなくなりがちです。でも仏教に触れることで、物事を多面的に見る力が育まれる。それが、これからの人生を生きやすくしてくれると思うんです。」

コーヒーと仏教が交差する場所

コーヒー愛に溢れる喫茶店の店主としての大海さんと、住職としての大海さん。この一日で私たちは彼の二つの側面を垣間見た。しかし、大海さんにとって、それらはどちらも自然に調和しているようだ。 大学まで実は寺を継ぐつもりはなかったという彼は、仏教に対してある意味フラットな視点を持ちつつ、新しいアプローチをとりいれて、地域に貢献するために注力している。そのあり方は、話のなかにでてきた「多様な視点を持つこと」を体現しているように感じられた。

本取材のインタビュー動画を公開しています。

以下YOUTUBE チャンネルへご登録ください。 動画本編:https://youtu.be/iY_zDFgU9b8 Monochrome 公式チャンネル:https://www.youtube.com/@monochromeso/videos

Roof-1について

Roof-1は金属屋根に特殊加工した太陽光セルを組み込むことで、普通の屋根にしか見えないデザインを実現した屋根一体型太陽光パネルです。一般的な住居用太陽光パネルは屋根、架台、太陽光パネルを設置するのに比較し、屋根だけの設置となるため1回の施工で完了する他、高いメンテナンス性も実現しています。塩害地域も20年間無償製品保証。詳細は弊社ホームページhttps://www.monochrome.so/roof)をご覧ください。 お問い合わせはこちら

モノクロームについて

モノクロームは、創業者の梅田優祐が自宅を建設する際に、理想の住宅用太陽光パネルと、つくられた自然エネルギーを効果的に制御するためのソフトウェア(HEMS)が存在しない問題に直面したことをきっかけに、その問題を解決するため、20217月に設立された会社です。 Instagram@monochrome.so X(Twitter):@monochrome.so

Text: Noemi Minami PhotoMaverick Watanabe Edit : Miko Okamura Ellies (Monochrome)

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