
能登半島の先端、珠洲市狼煙町。石川県の景観条例のもとで、黒瓦と下見板張りの家並みが守られてきた集落です。2024年の震災から2年、この地に〈狼煙のみんなの家〉が建ちました。維持費を抑え、災害時にも電気を絶やさないために、屋根には発電が欠かせない。その一方で、被災した家屋から救い出した能登瓦を屋根にそのまま葺き、黒瓦のある景観も守りたい。この相反する条件を満たす屋根として、設計を担ったKlein Dytham architecture(KDa)は屋根一体型太陽光パネルRoof–1を採用しました。
本記事は、2025年12月に公開した取材記事を、設計と施工の視点からまとめ直したものです。
〈狼煙のみんなの家〉は、普段は地域の交流拠点であり、災害時には避難のシェルターにもなります。運営者であるNPO法人奥能登日置らいが建物に求めた条件は、ふたつありました。維持費を抑えるため、太陽光発電と蓄電池で光熱費をゼロに近づけること。そして、停電時にも電源を絶やさず、災害時に機能し続けることです。屋根に発電を組み込むことは、この運営条件から決まっていました。
KDaの久山氏と大滝氏は、住民の声を何度も聞きました。そこで繰り返し語られたのが、能登の黒瓦を守りたいという願いです。
狼煙町は、いしかわ景観総合条例に基づく景観形成重点地区「奥のと里海 日置」に含まれ、黒瓦と下見板張りの家並みが守られてきました。加えて、被災した家屋から救い出した能登瓦を、この家の屋根にそのまま葺くことも決まっていました。
発電を確保しながら、黒瓦のある景観をどう守るか。これが、設計の課題になりました。

能登瓦は、両面に釉薬をかけて高温で焼き締めた、黒く艶のある瓦です。半島に吹き込む強い風、多い雨、冬の雪と高い湿度。そうした厳しい気候に耐えられるよう、強度を高める工夫が重ねられてきました。
震災で家の一階や二階が崩れても、屋根の能登瓦だけは割れずに残ったものが多くあります。その強さが、能登瓦の性格をよく表しています。
いま、能登瓦は石川県内ではもう作られていません。失われれば、同じ瓦を新しく葺くことはできません。だからこそ、被災した家屋から救い出した能登瓦を屋根に葺くことには、意匠を超えた意味がありました。地域の記憶を、素材そのままの形で受け継ぐことになります。
「奥のと里海 日置」重点地区では、屋根に太陽光パネルを設置する際にも届出が必要です。その基準では、太陽光パネルは原則として屋根から突出させないこと、屋根や太陽光パネルの色は原則として黒とすることが定められています。屋根は瓦、外壁は下見板張り、という景観を守るためです。
従来の太陽光パネルを屋根に後付けすれば、架台の分だけ屋根から持ち上がり、葺き直した能登瓦の景観から浮いて見えます。屋根に穴をあける施工では、防水性や耐震性への不安も残ります。発電を取れば景観が崩れ、景観を守れば発電が難しい。KDaは、この両立を可能にする解を探しました。

行き着いた答えが、屋根材そのものが発電するRoof–1でした。
KDaの代表、マーク・ダイサム氏とアストリッド・クライン氏は、環境への配慮をことさら見せる作り方を好まないと言います。
「デザイン的なエゴではなく、本当に自然なやり方で、機能を統合したい」。
初めてRoof–1を目にしたとき、二人は太陽光パネルとほとんど分からない見え方に驚いたそうです。
「これなら、屋根材として自然になじむので、使わない理由はないだろうと思いました」。
Roof–1は屋根材そのものとして葺くため、屋根から突出しません。色は黒。重点地区「奥のと里海 日置」の基準に無理なく収まり、発電の要件を満たしながら、救い出した能登瓦の景観も守れる屋根になりました。
リユースした能登瓦と、Roof–1。ふたつは同じ屋根の上に並んでいます。
能登瓦の釉薬の光沢と、Roof–1の光沢が静かに呼応し、遠目には瓦屋根そのものに見えます。
久山氏はこう語ります。「太陽が当たると黒瓦もピカッと光っているし、Roof–1も同じように少し光っている。この意匠的な相性がすごく良かった。瓦の記憶を残しつつ、最新技術を導入できました」。
採用の決め手は、屋根としての扱いやすさにもありました。傷んだ箇所があっても、その一枚だけを取り外して交換できます。久山氏はこう続けます。
「1枚1枚取り外せるので、故障があっても、その部分だけを修理・交換できる。全部がゴミになるのを避けたかった私たちにとって、サステナビリティの観点から重要でした」。
屋根全体が廃棄物になりにくいことも、大きな利点でした。
さらに屋根材一体型のため、瓦に穴をあけずに施工でき、構造や防水性を損ないません。金属の架台やフレームもありません。

景観条例のある土地、地域の素材を残したい案件、災害時に機能を止められない建物。〈狼煙のみんなの家〉は、この三つが同時に問われる現場でした。
モノクロームがめざしているのは、未来に残したい景色を守ることです。そのために、その土地に残したいものを設計者と一緒に見つめ、両立の道を最後まで考える。意匠と発電が両立しにくい屋根は、この案件が初めてではありません。
景観や意匠を理由に太陽光発電をあきらめる前に、設計の早い段階で相談してください。それをどう実現するか、条件を見ながら一緒に考えます
この〈狼煙のみんなの家〉が生まれた経緯や、みんなの家で過ごす人々の姿は、2025年12月公開の取材記事『【建築家インタビュー】クラインダイサムアーキテクツ設計「狼煙のみんなの家」』で読むことができます。
変わった屋根にも、Roof–1。 寄棟、曲面、異素材の混在。個性的な屋根形状にRoof–1を導入した4つの事例を、割り付け図とともに紹介します。〈狼煙のみんなの家〉もそのひとつです。
Q. 景観条例のある地域でも、屋根一体型の太陽光パネルは使えますか。 A. 地域の景観形成基準によります。たとえば珠洲市の景観形成重点地区「奥のと里海 日置」では、屋根に設ける太陽光パネルは原則として屋根から突出させないこと、色は黒とすることが定められています。屋根から突出せず黒い屋根一体型のRoof–1は、こうした基準に収めやすい屋根材です。設置には届出が必要な場合があるため、早めの確認をおすすめします。
Q. Roof–1は一部だけ交換できますか。 A. できます。Roof–1は一枚単位で取り外して交換できるため、傷んだ箇所だけを直せます。屋根全体を葺き替える必要がなく、廃棄も抑えられます。